第5話あらすじ:まだ確信は持てない

01.10.2012, 09:38

 

医者はグループで交代して患者を診察している。患者の気づいたことや彼らがしてほしいということに耳を傾け、さらに「ブロック治療」が必要であることを告げる。この構成手法を原則として(プロップとその『昔話の形態学』にごあいさつ!)ドクター・ライフの第5シリーズが作られた。場面の変わり目で少し間延びした感があるが、それでも動きが止まったことはない。距離を置いて被写体をとらえた光景からは、将来の和解と瞑想が見てとれる。自分の願望をコントロールすることと社会への適応がシリーズの主要テーマだが、それを求めているのはまずだれよりも参加者自身だ。

 ヴィクトル・マルレケルは律義に、遅れている専門家グループの到着をもう丸2時間も待っている。我慢強さは、麻薬依存症ではまれな資質だが、ヴィクトルはそれを完全にものにしている。「ドイツまで徒歩で行けと言われたら、歩いてたどりついて見せるさ」と、彼の健康が回復していることがことばになって表われる。グレープ・アントーノフはソファーに座ってアメリカのラッパー、Jay-Zの「99 problems」を聞いている。そして、しばらくしてから、廊下に出て医師で心理療法家のエリミーラ・サティベコワとダンスを始めた。多かれ少なかれ、彼の抱えている大きな問題は一つだ。ドクター・ライフに彼の父親が送ったリンクをフェイス・ブックの「ともだち」3000人が見たことだ。そして、グレープがいっとき麻薬と関わったのがリンクを見た99%の人間に初めて知られたのだ。「グレープ、大丈夫だよ」というコメントからは、驚きとためらいと信頼がないまぜになっているのがわかる。だが、シアトルで自動車整備の仕事をしていた青年は、投資してくれた人のことを心配しているのだ。胸を痛めたのではないかと。

 ロシアの年齢差別は終わりを知らない。イタリア人は、月1万5千ルーブルの年金で暮らしていて、投資家がいるビジネスモデルを考えることもない。彼のグレープ評は「パンツはジーンズからだらしなくはみ出ているし、ケツまで見せている」とばっさりだ。イタリア人が人に自慢できるし実際に自慢していることは、麻薬の金を工面する才覚だ。彼は父親とスニーカーのことで25ルーブルがどうしたこうしたと言い争うなど子供じみたところがあって、口を開けば、以前はヤクを買うのに1カ月50万使ったものだと言う。勘違いと分かって、あとで、日に5千だと言い直した。

 金にかかわる人間関係が第5話では比重を占めている。公式通り「金を寄越せ」とアンドレイが身内に詰め寄る。ヴィクトルが狼狽しているのは、小切手とカードを自分でどこに保管したのか覚えていないからだ。アナトーリーは母親に借りた金も絞り取った分も稼ぐからと約束している。身内に頼るだけで自分の生活がなくなり、生存しているだけになっていた、とアナトーリーの母親が心理療法士の前で総括した。やっと恥ずかしい気持ちがこみ上げたのだ。ほとんどのものが、「全て隠し通せることではない、どうせ親類はこのことを知ってしまうのだから」と自分が悪かったと自覚できた。ただ、グレープの場合は内因性の病状が認められる。いずれにせよ、依存性は弱くなっているものの、家族へのあたり方の原因は、内部的なものからくるのか外部的なものからかよく分からない。一つ言えることは、不幸せであることはだれもが同じだ、つまり、水兵の着るシャツの縞々のように横並びの同じ線だ、ということだ。

 「ブロック治療をやってから、顔色がよくなったみたい」と嬉しそうに話すのは、アレックスの妻だ。とはいえ、無意識ながら夢の中にはまだ古傷とも言える恐怖がのぞく。アレックスはよく眠れないでいる。しかし体力は目覚め始めている。イリーナは、医者によく眠れたと言ってニッコリする。ところが実際のところ、例えば、夫が麻薬をやっているかどうかなど質問されるので、彼女は腹立たしく思っている。彼女は、そのような質問が間接的に自分の社会復帰に関わっていることにどうやら気がついていないようだ。生来内向的な人間である彼女は、すでにどうやって社会復帰すべきか、その方策を選びとっている。「電話番号を変えます。家には帰りません。祖母の家へ行くつもりです」と、医者たちには最も難しい患者であった彼女だが、今はそう話している。

 アナトーリーは、スタッフの質問に極めて率直に答えて、「まあ、しばらくは持ちこたえられるだろう。でも終わったわけじゃない。自分が社会でやっていけるか、イメージできないんだ。分かってるのは、『もうやらない』と言わなきゃならないことだ」と言う。朝を迎えるごとにアナトーリーには詩作の素質が目覚めてきている。無意識のうち、創造的な自己治療を行っているのだ。「すべてが悪だ/飛び立つアクタ。ゴミに悪態/夢見ていたい。ようやくいまさら/ヤクは止み。やっぱりそれなら/夢は闇」―彼は治療にあたる医者に自分の詩を読んで聞かせる。その詩は、ついこの間、悪夢から覚めたときに書きとめたものだ。

 カーチャの夢は、なるほどと思わせるものだ。夢の中で彼女はメチルモルヒネ薬剤の錠剤を火で溶かしている。しかし医者は、それを麻薬中毒への逆戻り症状だとはみなしていない。「ブロック療法は、もうおしまい」と医者がカーチャに告げた。「もう健康だ」と言うのと同じことだ。アンドレイは、注射のあとの傷が癒えた自分の手足を医者に見せている。「自分ではとてもよくなった気分なんだが、女房はバカだとかクソくらえって言うんだ」と打ち明ける。家に帰るほどには心の整理がつかないでいる彼は、「頭の中をきちんとしてしっかり態勢を建て直しておかなければね」と話す。イタリア人は、だいたいにおいて表面的には反対に見えるのだが、やはり何かをつかみたがっている。「自分で自分をコントロールできるようになりたいんだ」と彼は言う。

 以前はイタリア人がリーダーとみなされていたことからして、自分のイメージが壊れないか彼が心配するのももっともだ。ドクター・ライフに寄せられたコメントを読めばそれが分かる。イタリア人は、自分と同世代のものが評価してくれたら、コメントはずっとたくさんあるだろう、他の誰か、例えばグレープに対するものよりも多いはずだと考えている。「オレについて、どんなことが書いてあるんだ?まだこの先1か月もどんなコメントが寄せられているか知らされないなんて」とイライラした様子でマガダンから来たカーチャと話している。カーチャについて言えば、マガダン州のパラトカ村がソーシャルネットワーク『同級生』上にファンクラブを作って、カーチャを熱烈に支持している。もちろん彼女にはいやな奴もいる。プロジェクトから彼女をはずせと言ってくるものたちだ。しかし、それは彼女が社会に戻ってきてもそれが果たしてバラ色のものだろうかという心配からくるものだ。まだまだ確信は持てない。

 

 

 

  • フェイスブックに投稿する
  • ツイッターに投稿する
  • LiveInternetに投稿する
  •  LiveJournalに投稿する

全てのイベントの記録

コメントする

 このフィールドの内容は非公開にされ、公表されることはありません。