夢を見た―何か大切な

24.09.2012, 09:30

 

ドクター・ライフの第3話では、3つの前線で戦いが繰り広げられた。まず最も注目を浴びたのが、チームの参加者の間に起こった派閥争いだ。2派のリーダーは、モスクワっ子のイタリア人とアナトーリー・ニスメヤーノフだ。イタリア人は麻薬の淵にくるぶしまではまりこんでいた。アナトーリーは、同じくプロジェクトの参加者であるエカチェリーナ・アンチポワと同棲していて、二人は互いの首に注射し合っていた。二人は参加者を不均衡な二つの勢力に分裂させていた。

 このことは、争いに道徳的な側面も、心理的な側面も持ちこんだ。心理学者の側からのイリーナ・アニシーモワの愚かな母性に対する昔ながらの非難はマガダンの二人とドイツから来たヴィクトル・マルレケルの支持を得た。しかし、同時に、個人的な生活には立ち入らない原則を支持するアンドレイ・クロシャノフ、グレープ・アントーノフ、そしてイタリア人にはどうでもよいことだった。この聖なるとは言えないにしろいわば三位一体といえるものうち二人はモスクワっ子、一人はアメリカ人だ。

 しかし繰り広げられた対決は決して地域的なものでも「都会×田舎」というものでもない。問題は、麻薬中毒から健康を回復するためには足元をしっかり固めなければならないし、心理学専門家と付き合っていく必要があるだろうということだ。専門家によって示された道に全員が有頂天になれるとは決して言えないが、何が大事なことかというある方向性を与えてはくれるはずだ。

 「母親で、麻薬中毒なのよ。こどもを施設にやってしまえっていうの?」電話口で夫のサーシャに愚痴っているのはイリーナだ。自室でカーチャがアナトーリーに話している。「イリーナはサーシャと一緒に来るべきだったわね」と彼女。イリーナとサーシャがそうしていれば、きっと治療に役立つ幸福感を生むホルモンのシロトニンが作れたのに、というのがマガダンから来た参加者の意見だ。

 2つ目の前線というのは、すでに触れたことがあるが、ナザラリエフ診療所の医師団と患者の間の抗争で、それはだんだんエスカレートしてきた。しかも原因は決して以前の心理学者とのかかわりが悪化したからでも、殻にこもってしまったイリーナが何も話さなくなったらでもない。ドクター・ライフの第2話で患者たちは初めて「ブロック療法」と呼ばれる治療を受けた。多くのものにとって苦しい治療だったが、第3話ではすでに負担は倍加して、4回目のこん睡状態を経ている。

 「ブロック療法」を受けたイリーナ・アニシーモワは完全には覚醒しきれないでいる。イタリア人が彼女のところにやってきて「足を組むな、髪を編むわけじゃないから」と、イリーナの手をとって言う。イタリア人自身はと言えば、次のエピソードで医者に次のように頼んでいる。「お願いだから4回目のブロック治療はもうしないでほしい。もううんざりだよ。幻覚もあるし。オレは今まで酸素もLSDも使ったことが無いんだ。ちょっと足の先を浸したってくらいだ。3ヵ月半麻酔をかけてもらって、結局、ヤクの量は5.5グラムのままで変わらなかったんだ」と。しかしながら、イタリア人は、涙まじりの嘆願にもかかわらず、いずれ第4回目のブロック治療を受けることになる。完全なリハビリのためには、ナザラリエフの治療メソッドでそう決められているからだ。

 実際、心の中ではチームの何人かは治療に費やす時間や強いられる忍耐などのせいで、満足した状態でいるとは言えない。ただ、あくまで心理的なもので、肉体的な問題はない。心理療法の専門家で麻酔医のエリミーラ・サティベコワはそう指摘する。注射のせいで足にできた掻き傷と潰瘍を包帯で覆い隠していたアンドレイ・クロシャノフだが、その足の傷もよくなりかけて、もう自由に歩けるようになった。ところが、第1話では、彼は階段から転げ落ちそうになったくらいで、そうなれば今ごろ体が不自由になっていたかもしれないのだ。結局は、医者は病状の分析と変化を観察するだけだ。これは参加者に分かってもらいにくい点だ。「ブロック療法」がいかにきついのかは映像視聴者にとっても最後まで実感しがたいものだ。予想できるのは、参加者と治療に長けた医者たちとの反目がこれからも起るだろうということだ。

 第3前線の戦いは、何よりも深刻な闘いと言える。健康な生活への兆しが感じられるかどうかがかかっている。麻薬依存症のものは、健康なものと違って、眠っていても普通は夢を見ることがない。ところが、ブロック療法のあと、夢が復活するのだ。「我々は、奇跡のようにすばらしい世界を変えた、塔をいただく地帯へと変えたのだ』と、シリーズのはじめに先が見通せる人間のようにヴィクトル・マルレケルが歌ったものだ。これは診療所のことを言っているのではなく、アンドレイが見た夢のことだ。夢の中でもう少しで麻薬をやるところだったのが、目が覚めて、治療を受けている診療所の囲いの中にいるのに気づいて、ああ良かったと思ったというものだ。

 マガダンから来たカーチャの夢は強迫観念を恐れるものだ。夢に見たのは、筋肉注射だ。血液が詰まって血圧が上がる。そしてその後、ムカデが現れる幻覚。だが、将来についての夢を見る者もいる。例えばアレックスだ。アレックスは、インターネットでドクター・ライフの第1話を見るために飛行機に乗って家に帰ったが、そこでは放映されていなかった、という夢を見たそうだ。夢が正夢でなければいいのだが。いずれにせよ、健康な生活を取り戻したグレープ・アントーノフが昏睡状態のとき自分で何を言っていたか分かるときがくるのは確かだ。

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