「ドクター・ライフ」第4話:不安と恐怖

28.09.2012, 10:54

 

 ストーリーは、話の筋が点線から途切れのない直線へと変化する。閉じられた集団には、決まって一目置かれる人物が現れるものだ。麻薬依存症の患者たちの「牢屋主」になれるかどうかは麻薬常習歴、つまり「闇の経験」がものを言う。ヴィクトル・マルレケルは30年の人生のうち14年間麻薬と生きてきた。そのことをヴィクトルはグレープに言う。戸惑い気味のグレープを前に、ヴィクトルは自慢げに、世界中どこの国でも、ヤクを一回分やってみたくなったら、どこで手に入れられるか知ることができる、とうそぶいている。「類は友を呼ぶ」からだとか…。アメリカ人のグレープは、自分の言いたいことをロシア語でうまく表現できなくて、海千山千のヴィクトルにたじたじだ。

 アナトーリー・ネスメヤノフも同じく「札つき」のならず者の一人だ。36年生きてきたが脇の下でも首でも首尾よく針を刺し、かつて自分の体に巣くっていたヒステリー娘が爆発しかけるのを抑えたものだが、発作が続いているあいだ指を全部かじられるほどさいなまれた。海賊がラム酒の発酵したのを使って獰猛なサメを退治するようなものだった。その上、麻薬患者が皮膚の奥深く隠れてしまった静脈を死に物狂いで探る描写で有名なバーヤン・シリャノフを思い出させる。陰嚢に針をさせる静脈を一つでも見つけたら有頂天になる有様は、読む者を背筋が凍るおどろおどろしい気持ちにさせる。アナトーリーはまるでシリャノフの本から飛び出してきたような人物だ。決して冗談で言っているわけではない。

 ある心理学専門スタッフは、一瞬たりとも気が休まらない。治療ののちアナトーリーが注射針をどこに刺そうかと探し回らなくてもよくなれば、彼の体はクリーンだ。しかし、失敗することは本当にないだろうか。疑心暗鬼に陥っている。問題を難しくしているのは、彼のパートナーのエカテリーナ・アンチポワがアナトーリーにべったり依存してしまっていることだ。二人が共同治療で小康状態が得られるとすれば、それは岩壁によじ登ることに似ている。ロッククライマーが固い岩石に打ち込んだ登山用のカラビナとロープに身をあずけているというより、ロープで互いに支え合った相棒の片方が上に登れば片方は下にずり落ちるというようなものだ。アナトーリーは岩のてっぺんにたどりつけないうち転がり落ちるかもしれないのだ。専門家としての経験がかえっていらぬ心配につながることもある。

 第4話では、まさにこの意味で全員を気が気でなくさせる。「わさびはあとで効く」からだ。診療所では時間が止まっている。新参のエカテリーナとグレープはプロジェクトが終わったら元気に退院できると思っている。だが、麻薬常習歴のもっと長い参加者たちは、うまくいかないかもと疑っている。麻薬なしのころの自分自身を思い出すこともできない、どんな感じなのかもう分からないのだからと、心の中で「うまく行く、いや、行かないかも」の繰り返しだ。もっと恐ろしいのは、同じような会話がどんな状況で展開するのか、いったい何が自分たちの再起の土台になるのかだ。外界から閉じられた集団ではどこでも同じだ。その結果、参加者はインターネットの1分間に全財産投げ出してもいいという状態になっている。(もっとも、肉親との電話はスケジュールに従って許可されている。)それでも、患者から患者へとパニックになるような恐怖感と不安感が感染していく。

 シリーズの主題になったのは、二つの最も嫌悪すべきこと、不安感と恐怖感だ。初めてこの兆候が見られたのは、グループ治療を行なっていた時のアレックスだ。用語の厳密性はどうでもいい、不快感の正式名称も重要ではない。大事なのは、伝わる波だ、つまり、そんな恐怖感など否定していたイタリア人の病室から、リハビリのあとは失敗したくないと思っていたヴィクトルの病室まで届いてしまった。パニックがグループを襲いはじめた。診療所にいることがうんざりするような無変化な生活に思えてきたのだ。将来のことを考えなければならない時間だけがいっぱいある変わり映えのしない退屈な生活だ。

 ストーリーの終わりに、つい最近までグループの無理解とつまはじきの目に遭っていたイリーナの誕生日をグループ全員が祝う。が、祝いは不安を長くは忘れ去ってはくれない。みな黙りこくって、回復すること、幸せや幸運についての会話などほとんど聞こえてこない。しかし、このような起伏のない入院生活の中にもちょっとした劇的な出来事があれば、おそらく次のストーリーでは別の人間が一回分のセロトニンを味わうだろうと思わせるに十分だ。さて、だれが恐怖感から逃れることができるのか、ぜひとも知りたいところだ。

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